「私家版・日本おもちゃ名作選」
おもちゃ作家・杉山亮



第8回 「星ッコロ」

絵のようなおもちゃというのがあります。
ただ、見るだけ。
なにをして遊ぶというものではなく、ただ、持っているだけで嬉しく、
ときどき、とりだして並べたり眺めたりするだけというおもちゃです。
たとえばヨーロッパ製の『ノアの箱舟』というおもちゃがあります。
大きな木の船といろいろな動物が2匹ずつセットになっていて、
遊び方はとくにありません。
乗船風景を作って置いておくだけです。
でも、それで十分に心を動かしてくれるのですから、やっぱりすてきなおもちゃです。

星ッコロは沖縄の首里で見つけました。
あるとき、県立博物館の横の坂をあてもなく散歩していたら
「工房・星ッコロ」という看板の建物がありました。
なんだかおもしろそうなのでひょこっと入ってみたら、
そこは沖縄伝承玩具友の会を主宰する外原淳さんの工房でした。
まったくの偶然でしたが、おかげで沖縄の伝承玩具、
外原さんのオリジナルのおもちゃなどをたくさん見せてもらうことができました。

たとえば、沖縄には土地柄、パイナップルに似た実をつけるアダンの葉を
さいて作るおもちゃがいろいろあります。
ちょっと水引細工のようなアダンの葉の工芸の中で、一番有名なのは
ハブグワーでしょう。
知らない人にアダンの葉で編んだハブの口に指を入れてもらいます。
そこで「ヤッ」とハブのしっぽをひっぱると、ややや、指が抜けない!
相手があせって指をひっぱればひっぱるほど、ハブはピタッと指先をくわえこんで
よけい抜けなくなるといういたずらおもちゃです。



これは今や空港のみやげものやさんでも買えるくらい
ポピュラーなおもちゃになりました。
工作としても、そんなにむずかしくはありません。

でも、ぼくが外原さんの工房でひきつけられたのは、
やはり星ッコロでした。
そのまま、工房の名前にもしているくらいですから、
外原さんにも(これこそは)という思いがあるのでしょう。
とにかく一目見て(あっ、これほしいよー。ドタバタドタバタ)となってしまいました。



で、どこがいいんだと尋ねられると説明しにくいのです。
遊び方はありません。
作って並べるだけです。
でも、この写真を見て、あ、これ、ほしいという人はきっといると思います。
ただ、いい。
そういう感じが絵とめぐりあったときのようです。

ただし、名画や工芸品と違って、欲しいとなればなんとか買える値段だし、
ものによっては自分で作れてしまうのがおもちゃのいいところです。
この星ッコロも作るのはむずかしくありません。
アダンの葉は簡単には手に入らないでしょうが、
牛乳パックや厚めの色画用紙でできます。
つくって、手のひらにのせて見ると、奇妙な嬉しさがこみあげてきます。
すもうでいうと、技能派の小兵力士という感じの抜群の存在感があります。

そして抜群といえば、このネーミングがすばらしい。
石を石ッコロというのと同じように、星を星ッコロと呼び捨てているのです。
当然、外原さんが名付け親かと思ったら違いました。
そもそも外原さんの郷里の竹富島(八重山諸島の星の砂で有名な小島)で、
子どもの頃、このおもちゃをほんとうにそう呼んでいたんだそうです。

確かにあの辺に行くと、星なんて感傷にひたる気にもならないくらい、
あっちの水平線からこっちの水平線までわっさわっさ出ていますから、
星ッコロに違いありません。
まるで天ノ川につかって北斗七星のひしゃくで水浴びしているような
スケールの大きな名前です。
これは星ッコロ。
遠く竹富島の子どもたちが昔、浜辺でアダンの葉をさいて作っていたおもちゃです。



(03/06/22 update. )



第1回 「軍配」
第2回 「かさね箱」
第3回 「プラレール 」
第4回 「ミラクルボウル」
第5回 「がいこつのカタカタ」
第6回 「クルクルパッチン」
第7回 「花はじき遊び」
第8回 「星ッコロ」

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