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なんてかわいいんだろうと思ってた絵本のことを、ここで書こうとして、テーブルの上に置いておいたら、遊びにきた友達が表紙を見て「うわー、気持悪い」と言った。その絵本は「トマトさん」(福音館書店)というタイトルで、作者は田中清代さん。田中清代さんのことを、わたしは随分前から、清代ちゃんと呼んでいて、と言うと、知合いかなって思うかもしれないけれど、知合いどころか、顔も年令も、わたしは知らない。でもね、彼女の絵をはじめてみた時から、清代ちゃんのことを、「絶対元気な女の子だ!」と直感して、なんか、そう呼びたくなったんだよね。とりわけ、「トマトさん」の絵は、大胆で自由で、友達が気持悪いと言った表紙のトマトさんの顔は、もうやっぱり、気持悪いと言った友達の気持もよくわかる程、ものすごく印象的。それに、虹色の浮き輪をつけたとかげとか、ぷるぷるした水しぶきなんか、ぞくぞくするくらい生きてる感じがする。トマトさんのささやかな悩みや涙とか、ふーとひと安心の気持よさとか、見てる方は、一緒になって感じたりするのに、読み終わると、悪いけど、そのトマトさんがすごくおいしそうで、つい食べたくなってしまう。
ところで、ひところ、よく、「むかしのトマトはおいしかったよね」とか言って、ほんとに、味もそっけもないトマトしか売ってなかったけど、ここ数年で、いろんなトマトが売られるようになったよね。去年、1個580円のトマトが売っていて、どうしようか迷ったんだけど、メロンでも買うような気持で思いきって買って、家で食べたら、これが甘いのなんのって、もうトマトって呼ぶようなものじゃなかった。やっぱり、むかし、畑で食べたほんもののトマトが食べたいな。わたしはちょっと青くて固くて、ヘタのあたりから強烈にトマトくさい匂いがするのが好き。
そういえば、清代ちゃんだけじゃなくて、このごろ、絵本の書き手が「これは絶対元気な女の子だぞ」って思えるものが増えてきたような気がする。
かべやふよう作「ねぇ、どこいくの??」(リトル・ドック・プレス)の勢いの良さはほれぼれしてしまう。それぞれのページの細かいところまで、生き生きしてるので、そっちに気をとられてるうちに、文章を読むのを忘れるくらい。自分でこんな絵本描けたら、それは幸せだろうな?というくらい作者自身が楽しんで描いてる絵本だと思う。まず、犬がめちゃめちゃ好きでしょ、きっと。それに野原も町も昼も夜も、学芸会やパーティや、大人や子どもも大好きでしょうね。だから、きっと、自分の事も大好きで、生きてることをうーんと楽しんでるんだろうな。
わたしのお気に入りの場面は銭湯のページ。犬13匹の散歩をしながらいろんなところにひきずられていくチャコちゃんがこの場面では、いつのまにか、裸になって、うれしそうに「おまた」の部分をかくしてる表情がとびきり可愛い。子ども連れのおかあさんの色っぽい腰の線とか、おすもうさんみたいなおばちゃんの後ろ姿も魅力的だなーと思うんだけれど、わたしは、実際、小さい頃から女の人のからだを見るのが好きだった。たぶん、男の人のからだを見るよりずっと、好きだった、と思う。高3の時、はじめて下宿して、銭湯に通ったんだけど、それはそれは楽しかったもの。一緒に暮らしてた同じ高3のマリとナカと、3人で行くんだけど、からだの洗い方とか、ふき方とか、みんなちょっとずつ違ってて、順番もそうだけど、背中とか、腰の後側のこすり方なんて、向きとか手の使い方とかでけっこう千差万別。普段はさばさばした性格のナカの洗い方なんて、ほんとにしつこく丁寧で、しかも、見た目もいい感じで、わたしは、ナカのを見て洗い方を勉強しました。マリは胴がすごく長いんだけど、ウエストから胸にかけてのラインが絵画のように綺麗でした。
マリとナカのだけじゃなくて、元気いっぱいの女の子のぷりぷりの太ももとか、ちっちゃなおばあさんのしわしわのおっぱいとか、太目の御婦人のたぷたぷのおなかとかも大好きで、座ってて立つ時に流れる雫の流れ方も人それぞれなんだよね。裸見てるだけで、いろんなこと想像しちゃって、いやらしく聞こえるかもしれないし、こう書くとすごくおおげさだけど、なんか、その人の今までの人生とかが見えちゃったりするような感じ。わたしは、目がいいので、細かい所まで観察できてほんとに、得しちゃった。
*メールマガジン「カンバセイション・ピース vol.02」
2003.4.30配信より転載
☆けいとさんは、作家・保坂和志さんのオフィシャルサイト運営を
されています。
保坂さんのサイト 「パンドラの香箱」
(05/09/05)
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かべや ふよう 愛知県豊川市生まれ。名古屋造形芸術短期大学卒。会社員を経て95年よりフリー。イタリアの雑誌「VOGUE bambini」のイラストや広告の仕事をしている。主な絵本に『だったらいいな』『ちょっとそこまで』『サンタクロースは自転車に乗って』などがある。
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