「私家版・日本おもちゃ名作選」
おもちゃ作家・杉山亮



第7回 「花はじき遊び」

京都の西井儀彦さんといえば、
花はじきを素材にたくさんのかわいいおもちゃを作りだす、おもちゃ作りの達人です。
これは西井さんのそのものズバリ「花はじき遊び」という名のおもちゃです
(キットで売られ、色塗りと釘打ちは買った人の仕事です)。





細長い板に丸棒を二本ずらすように打ち、
その間を腕を伸ばした人形がジグザグに落ちていくおもちゃがありますが、
そのバリエーションといっていいでしょう。
丸棒のかわりに釘、人形のかわりに花はじき、
そして落ちる筋はなんと八列もあります。


また、その釘に花はじきをひっかけると、
花咲かじいさんが通り過ぎたあとのように満開の花が楽しめます。



そもそも西井さんの前に、花はじきがおもちゃの素材になると思いついた人は
いませんでした。
それを主役にひっぱりだしてきたのが西井さんの手柄です。
おもちゃを作る素材として、
すでにできているもの、あるいは異なる用途で作られているものの
別の要素に着目して使っていくことが、もっと大胆にされていいとは思っていました。
牛乳パックがいろいろなおもちゃに化けているのが好例ですが、
それを廃物利用という遠慮がちないいかたでなく、
「これがベストの素材なので使っています」と大胆に宣言して
値段をつけてしまうことがあっていいということです。
実際、牛乳パックにはボール紙や画用紙にはない長所がたくさんあるのですから。

花はじきは昔から観光地の民芸風のみやげもの屋でよく見かけますが、
ちまちましているばかりで、遊び方は今一つピンとこないものです。
それがこの「花はじき遊び」では、花はじきが花びらの形をしていること、
いろいろな色をしていること、釘にあたると澄んだきれいな音がすることなど、
そのすべてが生かされて新しいおもちゃになっています。
西井さんは枯れ木に花を咲かせてしまいました。

ストレートにいってしまいますが、このおもちゃはきれいでいいです。
おもちゃのほめかたにもいくつかパターンがあって、
ぼく自身がいわれて嬉しくないものとして
「カワイー」「ウッソー」「ホントー?」(ほとんどなんの意味もない)、
「アイデアがいいね」「ユニークだね」「夢があるね」(決まり文句をいっているだけ)
「木を使っているのがいいね」「手作りがいいね」
(評論家している。おまけにぼくは木で手作りでしかおもちゃを作れない)
なんていうのがあります。
いわれて嬉しいのはやはり実感をともなったことばで、中でも
「おもしろい!」というのが一番ありがたいです。

けれども、この「花はじき遊び」を見ていると、
「カワイー」じゃなくて「かわいい」
なら、やっぱりいわれて嬉しいと思えてきました。
もちろん「かわいい」のが売れる時代だからと、
なんでもかんでも動物や漫画のキャラクターをおもちゃの中にとりいれて、
メルヘン路線・ファンタジー路線を行く気はないし、
今の世間の「かわいさの尺度」にあわせる気も全然ありません。
第一、それ以前に美しくかわいく作ったり書いたりする腕がありません。
けれども、かわいいのを毛嫌いすることもなく、
作者が自分の美意識をおもちゃの中に少しずつ出していくのは
意味のないことではありません。
きれいならいいのか、かわいければいいのかということではなく、
かわいく作った方がそのおもちゃのおもしろさが増すと考えるなら、
それはもう、かわいく作ればいいのです。

かわいいことばかりを売りにするのはいやらしいけれど、
しかしまた、人が美しいもの、かわいいものにひかれてしまうのもまた、
どうしようもなく自然なことなのでしょう。
ただ、その中にある、ある種の残酷さをも見落とさずに
やっていけばいいということでしょうか。
まこと、美の道はいばらの道です。
でも、今日のところはそのことを教えてくれた満開の「花はじき遊び」の前で
扇子をひろげて「あっぱれあっぱれ」といっておきましょう。



(03/06/08 update. )



第1回 「軍配」
第2回 「かさね箱」
第3回 「プラレール 」
第4回 「ミラクルボウル」
第5回 「がいこつのカタカタ」
第6回 「クルクルパッチン」
第7回 「花はじき遊び」
第8回 「星ッコロ」

ロフトのトップに戻る